コラム

本を読むための本

牧師 飯田敏勝

 キリスト教は正典を持っています。それゆえ「書物の宗教」だと、よく言われます。プロテスタントは啓示を「聖書のみ」としているので、殊更顕著です。
そこには課題もあって、日常の言語を理解し得る者であれば啓示を受け止められるのです。聖書の(トリビア的な知識は牧師に訊けばいいのですが)救いについて、イエスさまについて、人づてではなく信仰者一人一人が、まずは啓示の源泉である書物から聞き取っていかねばならないのです。
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わたしが代務をしています大曲教会も今年度いわゆる無牧で、役員たちは奨励の務めが当たるときなど四苦八苦しています。
それでも、聖書から聞き取ったこと、感じられたことを素直に語り伝える務めは、この世に証しするため信仰者ならば(役員だからではなく)担わなければなりません。でもどうしても勉強したり、正しい解釈を求める傾向が強く見受けられます。イエスさまが語った福音って、空の鳥や野の花からも語り得るんですけどね。ともかく素直に自分が聖書に触れたことを、現代人は中々語れない気がします(そういう説教しかしてない牧師たちの責任も重大だとは思うのですが)。 
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本を読み、更にその先に一歩進むことの楽しさを教えてくれる二冊の参考書に、最近出会いました。
又吉直樹、ヨシタケシンスケ『その本は』(ポプラ社、2022年)。これは目下ベストセラーとして本屋に並んでいます。千一夜物語的な枠で書かれた本を巡るショートショート集です。その一編一編が単純に面白いのは、有名なこの二人の著者ですからお墨付きです。そして全体として、『果てしない物語』や『ソフィーの世界』のように自分が手に持っている本でその本の中身を楽しめる仕組みが仕掛けられています。
聖書の世界に入って体験することを類推することができるでしょう。
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もう一冊は、カラシユニコ『本の虫ミミズクくん』。小学館のビックコミックスで月一連載中のマンガですが、単行本の1巻は出ています。
あくまで活字からのイマジネーションを楽しむ読書家の小学生が主人公。情報を抽出したり、映像化など他のメディアに移すことなく、あくまで本を本として読む姿勢を貫き、それで得た感想によって他人と交流したり、読書が人生にいかに働き掛けるのかを淡々と語っていきます。
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大袈裟でなく、自分が聖書から体得したことを、わたしたちも自分なりの言葉や感性で紡ぎ出していきたいものです。